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■第一段階 1時限目
少し早めに着いたので、ロビーから窓越しに牽引の教習を見学することにした。一般的な貨物トレーラーよりちょっと短めのそれが、コースを一周している。そうかと思うと建物の陰に隠れる場所に入ってしまい、なにやらバックしている。なにをしてるのかな〜と思って待ってると、またコースに出てきて一周、隅っこのコースに入ってバック。そんなことを延々と繰り返している。
で、時間が来てとうとうわたしの一時限目がやってきた。
ちょっと緊張しながらコースに出る。まず集合ポイントに集まり、教官から「何号車のかた〜」と声をかけられるのを待つ。まわりはみんな10代、20代の若者たち。ほとんど四輪自動車の教習だ。
教官は1/3ほどが女性。いずれもソフトな雰囲気で、わたしが四輪で通っていた18の頃とは教習所も大きく様変わりしている。
少し離れたところに二輪の集合場所もあり、教官と生徒たちが向き合って礼をしている様子が見えた。
懐かしいなぁ。2年ほど前、わたしもここで小型二輪の教習をした。あの「礼!」のときだけ妙に体育会系で、それがとても面白い。背中にしゃきっと緊張感がみなぎる瞬間が、わたしはとても気に入っていた。
牽引を担当する教官が現れ、「お願いします」と教習簿を渡す。30代後半〜40代前半くらいの男の教官である。
内心、「怖いかな〜怖いとやだな〜」と考えつつ、牽引車まで一緒に歩きながら「マニュアル車の運転、●▲年ぶりなんですよ」と言ってみた。(●▲の中身の数字を書いちゃうと年がばれるので伏せさせていただきます)
「えっ・・・」と教官、戸惑ったようにわたしを見る。あら驚かれちゃった。それもそうだろう。牽引免許を取るということは、ほとんどの場合運送業に従事しているか、目指していると思うはずだ。それなら大型免許を持っているのが普通だろうに、それも持ってない(教習簿を見ればわかるのだ)。マニュアル車の運転もしたことない。こりゃなんなんだ。そう思うのも当然かもしれない。
それとも、キャンピングカーを牽くため取得するケースも増えてきた、という認識は持っているのだろうか。特殊な世界だから、知らない人はまったく知らないかな。
わたしは目の前の牽引車に気分が集中していて、「うちキャンピング・トレーラー持ってるんですよ〜」なんて雑談をする気分ではなかった。
そのまま助手席に乗りこみ、ギア切り替えについての簡単なレクチャーを受ける。
もうずいぶん前のことになるが、自動車工場の代車に乗ったらミッション車で、まったく運転できなかったことがある。だからよっぽど練習しないとできないに違いない。
続いてトレーラーがバックしたとき、荷台部分がどっちの方向へ曲がっていくかの原理をおもちゃのトレーラーを見せながら教えてくれる。
これはよく知っているので、教官が「ヘッド車がこちらにお尻を向けたとき、荷台はどっちに曲がっていくかわかる?」と質問してきたとき、的確な答えを出せた。
そう、トレーラーの場合、ヘッド車が曲がっていくのとは反対方向に曲がってしまうのだ。
教官は「ああ、予備知識はあるのね」とちょっと感心してくれ、次のレクチャーに進む。
次はわたしが運転席に乗りこみ、ヘッド車と荷台がまっすぐになっている状態がどういうものか、ミラーや窓からの視認でよく確認する。タイヤや荷台の見え具合。まっすぐの状態での見え方を、脳裏に刻む。これがわかっていないとバックの時、曲がったら修正、曲がったら修正という調整を素早く行うことができないのである。
ひととおりの説明が終わり、「はい、ではエンジンをかけてください」と、教官。
えっ、そんな、心の準備がまだ。
わたしはおののいて、「えっ、あの、ブレーキは踏んでるんでしたっけ?」と、間抜けなことを訊いていた。
それに対する教官の返答がどうだったか、動揺していたため、実は覚えていない。わたしは結局、ブレーキを踏みながらキーを回していた。
「ガガ〜ン」と穏やかならぬ音を響かせて、 エンジンが始動した。
まずミッションの切り替え練習から。クラッチを踏み込み、ギアをセカンドに入れる。トラックの場合、馬力があるのでロー発進はしないそうだ。いつもセカンドからの発進となります、と教官が言う。
セカンドから、そのままギアを下に下げ、サードへ。このニュートラル部分を通過する際、注意が肝心だ。セカンドからまっすぐ下に降ろさないと、うっかり五速に入ってしまう。この教習中、2度ほど「五速に入っちゃいましたよ〜」と言われた。これは減点項目に入っていないようなので、それほど大したことではなかったのだが。
まずセカンド発進の練習。サイドブレーキを上げ、クラッチをいっぱいに踏み込みながらギアをセカンドに入れる。ゆっくりとクラッチを上げていき、トラックが前進していく。
がくんがくん揺れるが、とりあえず動いた。で、ブレーキ。エアブレーキがどういうものかはよく知らないが、これがめちゃめちゃよく効く。ちょこんと踏んだだけで、だあ〜っと前にのめる。
何度、「済みません」と謝ったことか。が、これで普通らしい。よかった、下手だからじゃないんだよね。
次にバックにギアを入れ、バックの練習。
後ろの窓越しに荷台部分の端を睨み、まっすぐバックしていく。見ないでもハンドル操作できるように、ハンドルの一番遠い箇所に手を置くのがポイント。荷台のお尻が左に折れていけば、左に。右に折れていけば、右に、ハンドルを見ずにグルッ、グルッ、と半回転から1/4ほど回転させて調節していく。
最初のうち曲がっていく感覚が掴めず、手遅れになってから慌てて調節する場面もあった。
それでも、教官が最初に抱いていた印象よりはるかに上手だったのか、「どこかで練習してきました?」と質問された。
わたしは大型車の運転のことかと思い、「いいえ」と首を振った。
その日はかなり暑い日で、エアコンは入っているが窓を開けているので、かなり汗だくになっていた。そんな中、重いクラッチを踏みながら後ろを振り返り、ハンドル操作する姿勢は、体力的にもちょっとキツイ。
頭の中は、クラッチペダルとハンドル操作でもういっぱいいっぱい。「そうか、わたしってトレーラーの運転、したことあったっけ。そのことを訊かれたんだな」と悟ったのは、家に帰ってからのことだった。
後ろを向きながらハンドルを切る際、「脇がつりそうです」と訴えると、そういうときはウェストをひねるのではなく、体ごと後ろに向かせればいいのだとアドバイスされた。
確かにお尻の位置をずらして全体的に後ろ向きになると、かなり楽になった。
で、ゼイゼイいいながら「もう1時間くらいやったかな。そろそろ終わりかな?」と思い、ふと時計を見た。時刻は4時4分。3時半に始めたのだから、まだ34分しかやってないじゃないか。
それなのにもう1時間くらいやった気分になっていたのは、感覚がだいぶ麻痺していたんだろう。
一番難しかったのは、左に幅寄せしつつまっすぐ停める、という項目。つまり縦列駐車みたいにバックして寄せるのである。牽引の場合、曲がっていきたい方向とは逆にハンドルを切る。
この場は左に寄せるのだから、右に切る。でも大きく切りすぎると曲がりすぎて、縁石にぶつかりそうになる。
教官の説明によると、「大きく曲がった場合、ハンドルを大きく回せば修正できるが、おつりがきてまた反対側に大きく曲がってしまう」のだとか。
ひえーっ、難しいよう。
うまく寄せられなくて、「はい、右に切って。左に切って」と指示されているあたりは、ほとんど言うがままにハンドルを切っていた。
頭ではわかっていても、曲がっていってしまう荷台を目にして瞬間的に判断できない。
あ、左に曲がった。反対側に切るんだっけ、曲がった方向に切るんだっけ。一度、脳の神経回路を通して記憶中枢に情報を送り、「左だよ」という結論が戻ってくるのを待ってハンドルを切る。だから、反応が遅い。
曲がった方向に、的確な分量だけハンドルを切る。切りすぎてもいけない。さじ加減が難しいのだ。
それと懸念されていたシフトチェンジだが、結構ちゃんとできた。時々かくんかくんとなってしまい、一度なんかエンストさせてしまったが、まずまず上手にコースを一周できた。
これで最初の1時限目が終わった。
が、このコース走行、牽引教習においてはさして重要事項ではないらしい。
とにかく牽引は、バックに始まり、バックに終わるといっても過言でない。次の2時限目でそれをはっきりと思い知ったのであった。
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