ミラノ到着 
 ミラノへは予定より20分早く到着した。午後6時30分の予定だったのが、6時10分と早まったのである。
 左は飛行機の窓から見たイタリアの夜景。
 日本のネオンぎらぎらの派手な夜景とは違って、オレンジ色中心の穏やかな色調が印象的だった。
 飛行機を降りると、通路の途中で添乗員さんが待っていた。こっちこっち、とツアーのメンバーたちを集めている。
 隣にはH.I.SとJTBのツアーも集まっていた。いずれも非常に人数が多い。
 わたしはこの日本旅行に決定する前、H.I.SかJTBかで大いに迷っていた。それだけに、もしかしたらあの二つのグループのどちらかに自分がいたかもしれなかった。
 あちらの大所帯に比べ、わたしたちはたった16名のツアー。
 もとから少人数である上に、ミラノに着いたところで一組のご夫婦がツアーから離脱したため、さらに少ない14名となった。
 この数だと添乗員さんもかなり楽だろうし、なによりわたしたちも快適。集合時間にもさっと集まれるし、顔もすぐに覚えられた。
 こっちにしてよかったかも。
 皆さんと一緒に通路を歩いていると、頭上に妙なものを発見した。天井から電気ストーブの中の赤い熱線みたいなのがぶら下がっており、暖かい。初めて見る不思議な設備だった。
 添乗員さんのあとについて、荷物の引取りへ。
 出てくるのがとても遅いのはやっぱりイタリアだ。でも、ポーターさんが2人ついてカートに山積みにし、バスまで運んでくれたのは楽ちんだった。
 ポーサーさんたちには費用を支払っているので、チップは不要とか。ツアーはこういうところがありがたい。
 荷物のカートについて、ぞろぞろとバスまで歩く。外の空気はひんやりしていて、まるでスキー場に来たような感じだ。
 息が白い。
 だが、湿度が高いせいだろうか、気温の低さほどには寒いように感じない。
 実はイタリアは地中海性気候であるため、冬の降雨量が多くて多湿なのだ。関東の乾燥した厳しい寒さとは、ちょっと違うような気がする。
 迎えに来ていたバスに乗り込み、わたしたちは前から2列目に座った。
 ホテルへは約1時間30分ほどかかるそうだが、あとは到着するのを待つばかりなので、たいそう気が楽だ。
 これが自由旅行だと、ホテルへの足をどうしようか考えたり、時間のことを気にしたり、レストランはどこにしようか、チェックインは・・・など色々と不安や緊張を感じてしまう。
 それがツアーだと、なにも考えずに観光だけに没頭できる。ストレスがない。これがパックツアーの最大のメリットである。
 今年の5月にフリーのフランス旅行を楽しんできたわたしだったが、そのとき感じた緊張感やストレスなどを思い起こすにつれ、ツアーで味わう安心感はもう比類がなかった。
 わたしは、いつかレンタカーで走るときのために道路の雰囲気を観察しながら、添乗員さんの説明を聞いた。
 街中の時計やテレビ番組で表示されている時計が皆ばらばらなので添乗員さんの時計に合わせるようにとか、50ユーロ以上の高額紙幣では買い物がしづらいとか、置き引き、ジプシーの子どもたちによるスリの話などが紹介された。
 さて、いよいよバスはミラノの街中に入った。
 そして、これがわたしたちが泊まる最初のホテル、「STARHOTEL TOURIST」(スターホテル・ツーリスト)。予定より早い、8時ちょっと過ぎに到着した。
 周囲はビジネス街ということで古都の雰囲気は感じられなかったが、近くには路面電車が走っていた。
 バスのカーゴからスーツケースを取り出す運転手さん。このあとローマに到着するまでお世話になった方で、温厚で誠実な、よい運転手さんであった。
 イタリア人というと、クラクションを鳴らしながら窓越しに怒鳴りあって運転してるようなイメージがあるが、この人は全然そういうことはなかった。クラクションも滅多に鳴らさないし、イライラした様子も見られなかった。
 一方、フィレンツェで参加したマイバス・ツアーの運転手さんは怒りっぽく、常にイライラしながら運転していて、とっても怖かった。
 で、わたしたちのスーツケースはホテルのポーターさんが各部屋まで運んでくれることになっていた。まとめてチップを払っているので、ただグラッツェと言って受け取ってください、と添乗員さんが言う。
 2度のフランス旅行ともポーターなんていないホテルに泊まったので(それでも四つ星ホテルだったのだけど)、こういうところも嬉しい。
 ロビーで、添乗員さんがチェックインするのをしばし待つ。その間、皆さんクリスマス・ツリーの前で記念撮影したり、椅子に座っておしゃべりしたり。
 ちょっと時間がかかったが、ようやく全員のチェックインが完了。添乗員さんが明朝のモーニングコールや朝食、出発の時間を告げ、わたしたちはそれを日程表のメモ欄に書き入れた。
 そして皆にキーが手渡され、各自部屋に上がっていった。

 わたしたちも鍵を受け取り、部屋に入った。
 十分すぎるほど広い部屋で、床に2個のスーツケースを同時に広げられるほどの規模だ。
 真新しい感じはなくて、どちらかというと古い印象だが、綺麗に保たれている。
 バスルームにはちゃんとバスバブもあり、ホッとする。
 海外のホテルの最大の難点は、まだ一部にバスタブを備えていないホテルがあるということ。ここイタリアでも人々はシャワーだけで済ませることが多く、特に冬期は毎日お風呂に浸からないということだ。
 わたしはお風呂に湯を張り、ゆっくり浸かりながら長いフライトでむくんだ足を丁寧にマッサージした。
 バスタブにはおなじみのカーテンではなく、半透明のアクリル板が付いていた。これが意外と役立たずで、油断してシャワーを使っていると、微妙に空いた隙間から水がこぼれてしまう。
 気がつくと床が水浸しになっていて、わたしのスリッパがぐっちょりと濡れていた。
 カーテンもぺちょぺちょと体に張り付いてきて苦手だけど、このアクリル板もなんだか困りものだ。
 トイレにビデが並んでいるのは、やっぱりイタリアだ。これに慣れると、意外にウォシュレットよりいいかも思う。
 ちなみに、揃えてあるアメニティは固形石けんと液体ソープのみ。
 バスタオルは相撲取り用かと思うほど大きく、畳一枚分より大きい。体に巻きつけると脛まで届く。それが、水分を含んだ重みと、バスタオル自体の重みとでずり下がってくるのが難点だ。
 あと不思議でしょうがなかったのが、洗面台やビデのところに掛かっているタオルだった。いわゆるパイル地の普通のタオルではなくて、テーブルナプキンだったからだ。これがこのホテルだけじゃなくて、最後のローマのホテルまでずーっとテーブルナプキンだったのが不思議だった。
 テーブルナプキンじゃ濡れた髪を乾かすのにも不十分だし、手を拭いても乾いた気がしない。
 他の人に話すと、やはり皆さん不思議に思っていたらしくて、「馬鹿にしてるのかしらね?」と怒っている人もいた。
 これがイタリアでは当たり前のことなのだろうか。
 わたしはお風呂から出ると、明日に備えて観光に持ち歩く持ち物をとりまとめた。
 
 ベッドに入ったのは9時半。日本時間だと夜明けの5時半だ。
 眠いのに、すぐには寝付けない。
 隣室で客がお風呂に入り始めたらしく、水道管から発するお湯の音がゴーッと響く。シャワーが水面をたたく音まで聞こえてきた。
 壁は薄いようだ。
 いやそれ以上に騒々しかったのは、窓の外から聞こえてくるバーンという銃声のような音だった。街中なので、まさか鹿討ちをしているわけじゃないだろう。
 これが日本の田舎で明るい時間帯だったら、田んぼの鳥よけの空砲だと思うに違いない。
 だが、今は夜間で、周りに田んぼはない。
 ビルの建設現場で鉄骨を投げ落とす音のようにも聞こえた。
 しかし、4時には工事を終えて帰ってしまうなどと言われるイタリアで、こんな時間帯に鉄骨を投げたりするだろうか。いや、日本でだってビル工事などしない時間帯である。
 この音は数時間に渡って響き渡っていた。

 深夜に1度目覚めたが、そのときには例のバーンはやんでいた。そして、次に再び目が覚めたのは、まだ暗い5時のことだった。
 朝食は8時なのでもっと寝ていてもよかったが、もう眠ることができない。まだちょっと早いとは思ったが寝ていても眠れないので、潔く起きることにした。
 朝風呂に入り、出発の支度をととのえる。
 朝焼けが東の空を赤く染め始めたのは、7時をちょっと過ぎた頃であった。
 8時になったので、待ちに待った朝食をとりにレストランへ降りる。
 パン、シリアル、ハム、ベーコンなど、ごくふつうのアメリカンブレックファストだ。
 ハム好きの息子は、おいしいおいしいとハムやソーセージをお代わりして食べていた。
 普通のクロワッサンが食べたかったのだが、うっかり中に甘いチョコレートが入ったものをとってしまった。全部食べられずに残すハメになった。
 だが、さすがハムの本場のイタリア、これはたいそうおいしかった。
 ホテルの構造は、エレベータを出て右がちょっと高級な感じ。ドアはカードキーになっていた。
 左側はスタンダードな感じで、旧式な鍵だった。で、わたしたちは左側の部屋で、こんなにずっしりと重いキーホルダーが装着されていた。
 9時、ホテルを出発。昨夜と同じバスに乗り込み、ミラノ観光へ向かう。


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