いざ、成田へ 
 今年最後の海外旅行はイタリア四都市、ミラノ、ヴェネチア、フィレンツェ、そしてローマを巡る旅だ。こうした周遊型の場合、個人でまわるとかなり高くつく。わたしも最初は個人ツアーを計画したのだが、最終的な価格を見比べてみて、はるかに安く済む添乗員付きの完全パックツアーを選ぶことになった。
 H.I.S、JTB、阪急交通社といった大手を探しまわり、最終的に日本旅行のベストエクセレントというブランドに落ち着いた。
 どうしてこのツアーを選んだかは、おいおい説明していくこととする。
 そして、今回の旅の相方となるのは中二の息子。
 昨年のフランス旅行は夏休み中だったが、今回は学校を休んでの参加となった。
 
 わたしたちは午前9時34分に池袋を出る成田エクスプレスに乗り、10時57分、成田空港に到着した。ツアーの集合時間は正午、フライトは2時なので、わりとゆっくりめの出発であった。
 ちょうどいい時間のNEXがなかったため、1時間も前に到着したわたしたち。朝ごはんがコーンフレークのみと軽かったので、ちょっと小腹が空いてきた。
 第1ターミナルのレストラン街の看板を見ながら「なにが食べたい?」と息子に訊くと、カフェに行きたいと言う。そこで、わたしたちはスターバックスコーヒーに入った。
 時間が余りすぎたせいで、わたしはかえって油断をしてしまった。
 軽食をとった後、トイレに行ってくるという息子を見送ったとき、時間を確認するのを忘れたのである。
 なかなか戻らない息子を待ちながら、ふと時計を見ると、11時45分になっていた。
 しまった。集合時間まであと15分しかないじゃないか。
 わたしは焦った。
 お腹の弱い息子は、食後のトイレが非常に長い。ときに30分くらいお籠もり状態になることすらある。
 わたしはテーブルの上を片付け、息子の荷物も一緒に引きずって男性トイレまで迎えに行くことにした。
 中に入るわけにもいかないので、入り口のところで息子の名を呼ぶ。だが返事がない。2度3度と呼ぶが、しーんと静まり返っている。
 そこで、別のトイレに行ってみた。結果は同じだった。
 再びスターバックスコーヒーに戻ってみる。息子の姿はない。わたしのパニック状態がさらにヒートアップした。
 まずい。非常にまずい。
 このさい息子は置いといて、とりあえず集合場所の団体カウンターに行ってしまおう。添乗員さんやツアーのメンバーたちと初顔合わせをする場面で遅刻して、ルーズなヤツだと思われたくなかったからである。
 わたしは2台のスーツケースをごろごろと押して、Eカウンターに向かった。
 だが、カウンターに入るためにはパスポートを見せ、X線検査に通さなくてはならなかった。つまり、荷物の持ち主を抜きに中には入れないのだ。
 こうなったらもう、呼び出しをかけるしかない。
 わたしはカウンターから程近いところにあるインフォメーションに行った。受付のお姉さんに、呼び出しをかけてくれるよう頼む。
 放送後、わたしが「聞こえたかしら」と危惧していると、お姉さんは男性職員を向かわせ、トイレを探すなどの手配をしてくれた。そして、再びアナウンスをかけてくれた。
 わたしはじりじりと連絡を待った。
 数分後、悠々とした足取りでこちらに向かってくる息子の姿が見えた。
 インフォメーションの人にお礼を言い、さっそく息子に事情を聞く。
 なんと、わたしが大声で呼んだときトイレの中にいたと言う。だが、恥ずかしくて返事をしなかったのだとか。そのあとスターバックスに戻ったが、母はいない。焦ったのは息子も同じだっただろう。
 で、なんとなくアナウンスが聞こえ、2度目で呼び出し場所が聞こえたため、一人でこちらに来たという。
 ああ、よかった。
 息子には「なんでスターバックスで待ってなかったの。置いてったせいで、かえって時間がかかったじゃん」と言われてしまった。
 確かにその通り、「短気は損気」。はい、よーく肝に銘じておきます。
 
 結局、集合時間には遅れてしまったが、まだ数組が受付中だった。その列の最後に並ぶが、わたしより後にくる人も多かった。
 カウンターの中にいる添乗員さんが一人一人に何かを渡し、いろいろと説明したりしているため、時間がかかっているようだ。
 この様子だと、一本後の成田エクスプレスでもよかったかも。それだと11時57分着で思い切りギリギリとなり、駅のすぐ上にある銀行で両替をすることもできない。ターミナル内の両替所は混雑するため、今回は手前で済ませようとしたのだった。
 だが、この様子なら、多少遅れていっても大丈夫そう。両替は後でターミナル内でゆっくりすればよかったのだ。
 
 カウンター周辺にいる顔ぶれを見ると、若いカップルが多いのにまず驚いた。
 30歳代くらいの夫婦らしき組み合わせや、おばあちゃんと母親、娘さんという三世代グループもいた。まだ結婚していないんじゃないかと思うほど若いカップルも数組見られる。
 昨年参加したツアーは中年以上初老未満という熟年夫婦ばかりだった。皆さん温厚で親しみやすく、最後には離れがたく思ったものだ。
 だが、今回はどうだろう。仲良くなれるかしらと、なんとなく不安になってくる。
 添乗員さんは若い女性で、感じがよかった。
 ガイドさんにありがちな、やけにテンションが高い張り切りタイプではなく、物静かだがテキパキしているという感じだ。
 イヤホンガイドや航空チケットを渡され、説明を受け、スーツケースを預ける。
 これでチェックイン完了。
 わたしたちは再びレストラン街に戻ってコンビニに入り、おせんべいや菓子パンなどの軽食を買いこんだ。ミラノのホテルに到着したあと食べるところがないと聞いたからだ。
 そして出国手続きを済ませ、免税店へ。ここでいつもの化粧品を購入し、ゲートに向かった。
 ゲートの搭乗時刻は13時20分。だが、それより早くアナウンスがかかり、わりと早く機内に入ることができた。
 
 わたしたちは幸運にも窓際の席だった。今回はツアーだからリクエストできまいと思って特にしていなかったのだが、ラッキーだった。
 しかも、3列ある通路側の端の席にはまだ誰も来ない。
 わたしと息子は、よしよしこのまま誰も来るなと祈り続け、人がこちらに歩いてくると冷や冷やしたものだ。13時40分になって添乗員さんがやって来て、「今日は空いてます。もう誰も乗ってきません」と言ったので、胸を撫で下ろした。
 あちこちにポツポツと空席が見られ、通路側になってしまった人は他の席に移ったりしていた。 
 なかなか幸先のいい出発である。
 飛行機は無事に離陸し、まもなく窓の左手には富士山の姿がくっきりと見えた。
 雲の上にぽっかりと浮かぶ富士山はまことに神々しく、イタリアに旅立つ私たちを見送ってくれているようであった。
 ちなみに、今回のイタリア行きも昨年同様、アリタリア航空だった。少し前に新聞で読んだのだが、アリタリアは赤字経営が続いており、エールフランスに買収してほしいと持ちかけているとか。
 なんでフランスの航空会社に買われたいのかよくわからないが、乗務員のつんけんした態度を見れば、今ひとつ人気がないのも理解できるというものだ。
 まあ、今回のフライトの乗務員たちはまだいい方だったかも。帰りの乗務員はもっとひどかったもの。
 それはともかく、通路側の1席が空いていたことは、非常にありがたいことだった。わたしは気兼ねなくトイレに立ったり、最後尾に設置されたドリンクバーに出かけてソフトドリンクを飲むことができた。
 食事はまあまあ。以前にも書いたが、セブンイレブンのお弁当の方がまだおいしいかも、というレベルだ。
 食後は、ギャレーでたむろしている乗務員のところに行って缶ビールをもらってきたり。
 映画は「パイレーツ・オブ・カリビアン〜デッドマンズ・チェスト」と「ザ・センチネル」を鑑賞。それからカードゲームのソリティアを楽しんだあと、コンタクトレンズを外して就寝した。


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