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いったんキャンプ場に戻り、続けて酸ヶ湯温泉へ繰り出す。
実はここが本命中の本命で、これまでの温泉はいわば足慣らし?みたいなものである。
酸ヶ湯温泉は十和田八幡平国立公園の北部、八甲田山の主峰・大岳の西麓に位置しており、標高は約900メートル。
キャンプ場からR103号線をはさんで反対側にあって、歩いても行ける。
開湯300年と歴史は古く、元々の名称は「鹿湯」だと言われている。 |
それが「酸ヶ湯」と変わっていったのは、お湯が強酸性のため非常に酸っぱいせいだろう。
さて、本館正面の駐車場はほぼ満車に近い賑わいで、玄関の横にまんじゅう売り場などがあるあたり、まるで有名観光地のドライブインみたいだ。 |
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本館の建物も渋いが、併設された湯治棟も時が止まったかのような佇まいだ。
本館の入り口から中に入る。フロントはわりと近代的な印象だ。
靴を入れるビニール袋が用意されており、日帰り入浴客は靴を脱衣所に持って行くようになっている。
広いロビーはチェックインする宿泊客と日帰り客とでごったがえしていた。その光景は、GWに訪れた須川高原温泉とどこか似たものがある。 |
券売機で購入した入浴券をヒバ千人風呂の入り口にある無人の番台に出す。
千人風呂は混浴であるが、脱衣所は男女別に分かれていた。脱いだ服を入れる棚と、100円が戻ってこないロッカー、洗面所、あとは大型の扇風機が一台設置されている。
わたしは谷地温泉と同様、大判のバスタオルを巻いて浴室に向かう準備を整えた。
すると浴室に通じるドアが開いて、全裸の年配女性が現れた。
わたしは「もうそこからいきなり混浴になるんですか?」と、その女性に尋ねた。
女性は「そうよ」と、こともなげに答えた。
すっぽんぽんで戻ってくるとは、なんという強者。わたしなんか、バスタオルを巻いてもけっこう勇気がいるというのに。
その時、20代のうら若い女性がタオルを前に垂らしただけの状態で浴室に入ろうとした。それを、先の年配女性とは別の女性が制止した。
「それじゃダメだよ。これを巻いていった方がいいよ」と言って、一枚のバスタオルを渡している。
なんでも、体を覆うタオルを持っていないのを見た別の人が譲ってくれたものだそうだ。
こうしてバスタオルが人から人の手に譲り渡されていくのには、れっきとした理由があった。
浴室のドアを開けてヒバ千人風呂に足を踏み入れた瞬間、わたしは「ああ、これじゃあねえ」と思わず納得したのだった。
千人風呂というだけあって、そこには非常に広い空間が広がっていた。80坪というから、家が何軒も建っちゃうほどの広さだ。
使いこまれたヒバ材の天井は高く、壁も床もいい感じに古びている。緑色した濁り湯が総ヒバ造りの湯屋と好対照をなしていて、素晴らしいコントラストだ。 |
だが、その緑白色の湯をたたえた浴槽のまわりには、文字通り「鵜の目鷹の目」で女性の姿を追う男性入浴客の姿があった。
浴室内は原則撮影禁止だが、この状況を知ってもらいたくて敢えて撮影した。この写真だと小さくてわかりにくいが、縮小前のサイズで確認すると、23人中14人が女性の方を見ているのがわかる。
混浴とはいえ、浴室内は男女別に領域が設けられている。浴槽の真ん中に目印があり、左は男性、右は女性となっている。 |
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さらに女湯の脱衣所を出るといきなり階段だが、目隠しの衝立があって、男性からの視線を遮るようになっている。衝立には覗き窓がついており、浴室の様子を伺うことができる。
その小さな窓から見ると、男性の視線が女性エリアの方に注がれているのが一目瞭然だった。
わたしは階段を降りていった。目隠しの衝立は、階段の下から数メートルはしばらく続いている。こういう構造の混浴風呂というのも初めてだ。
おそらく昔は衝立もなく、男女別に領域を分けることもなかったのだろう。しかし、混浴マナーの低下に従って、こうした対策が施されることになっていったに違いない。 |
被り湯の「冷の湯」にやってきた。「冷」という名前ながら、そんなにぬるいわけではない。
ここまで来ると、「四分六分の湯」にいる男性たちからは丸見えだ。おそらく彼らの視線は、被り湯を浴びている女性たちに向けられているのだろう。
わたしは被り湯を使うと、夫と一緒に目印がある中央で湯に浸かった。
「四分六分の湯」は千人風呂で最も大きな浴槽だ。源泉が高温のため、水が加えられている。 |
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「酸ヶ湯」の名に違わず、飲むとレモンのような酸っぱい味がする。苦みは少なくて、どちらかというと爽やかな酸味だ。ph1.5という強酸泉ながら実にまろやかなお湯で、ぴりぴりする感じはない。
お湯も素晴らしいし、湯屋も風情たっぷりで、もう最高。
ここに匹敵するほどの温泉があるとすれば、湯田中温泉「よろづや」の桃山風呂が挙げられるだろうか。いつまでもいたいと思わせる心地よい空間である。
だが、それにしたって男性が皆一様にこちらを向いて座っているというのも、かなり異様に思える。
男性が座ることのできる浴槽の縁は左半分だけなので、そこに腰かけたら嫌でも女性の方に向いてしまうというのは理解できる。
だが、手前側の縁にいる男性まで女性脱衣所と冷の湯側を向いて座っているというのは、なんとも不自然だ。
ちなみにバスタオルを譲られた例の女性は、「四分六分」の看板の下に腰かけて中年の男性と話をしていた。なかなか度胸のある女性である。 |
さて、こちらは「熱の湯」。名前のわりには熱くない。源泉をそのまま使用しているらしく、「四分六分」とは源泉が違うようだとも聞く。
女性の姿が少ないせいか、こちらの方がとても空いていて落ち着ける。
なお、この酸ヶ湯には「混浴を守る会」というのが存在する。男性代表、女性代表がそれぞれおり、看板などで「男性は女性を好奇の目で見るべからず」といった三箇条の心得を呼びかけている。 |
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この会の発足前年、「四分六分」の真ん中に仕切りが設置されたことがあったという。しかし、窮屈だなどの苦情があって撤廃したそうだ。
わたしも情緒あふれる浴室をそのまま楽しみたいので、無粋な仕切りを設置することには反対である。
しかし、女性の裸見たさに男性客が集まるようになったら、この日本独特の混浴文化は瀕死も同然だ。現在の法律では、新たな混浴風呂を設置することはできないと聞く。
となれば、古くから残る混浴の温泉は、大切に守っていかなければならない貴重な遺産であり財産なのである。妙なスケベ心からそれを潰さないでもらいたい。 |
| ■5日目:再度、酸ヶ湯温泉 |
実はこのヒバ千人風呂には、女性専用時間が設けられている。
法師温泉「長寿の湯」にもそれはあるが、日帰り入浴客が利用できる時間帯ではない。
しかし、ありがたいことに酸ヶ湯温泉では朝8時から女性専用時間になっている。日帰り入浴は朝7時からだ。
混浴は日本古来の文化だということは認めるが、やはり男性と同じ環境で入浴を楽しむことはできない。湯に浸かったり縁に腰かけたりを繰り返すたびに、バスタオルを巻いたり外したりといった手間が面倒なのである。
やっぱり堂々と、この情緒あふれるヒバ千人風呂での入浴を堪能したいではないか。
よし、次は朝一番で女性専用時間に入るぞ! と突撃したはいいが、張り切りすぎて時間を間違えてしまった。 |
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そう、女性時間は8時からと知っていたのに、なぜか時計を読み間違えて7時に来てしまったのである。
裸になってから念のため衝立の覗き窓? からヒバ千人風呂を覗いたら、男性ばかりで驚いてしまった。
しかも、階段の下を覗きこむと、「熱の湯」のそばで仁王立ちしている男性がいる。このときはまだ混浴の時間であったが、女性が何人か入浴していた。 |
脱衣所で時間を潰していると、フェイスタオル一枚しか携えていない若い女性が浴室から戻ってきた。彼女は「別に、もう二度と会わない人だから平気」と、ケロリとしている。
そりゃーそーだけどさー。前だけ隠してもお尻が丸見えじゃない? それを見ようという男性が待ちかまえているところへ、よく行くなあ。
わたしなんかの世代より、どうやら20代の子たちの方が羞恥心がないらしい。
それから九州から自動車で来ているという同年配のお母さんと小学生の娘さんと親しくお話しし、時間はわりと早く過ぎていった。
彼女は先に千人風呂に入っているご主人に伝言があったのだが、バスタオルを持っていないので自分は行けない。代わりに娘さんを行かそうとしたが、ミーアキャットみたいに立っているヘンな男がいるからやめよう、ということになった。
衝立の小窓から何度か様子を見たが、ミーアキャット状態のその男はいつまでも同じ場所に佇立していた。
湯冷ましするのなら、浴槽の縁に腰をおろすはずだ。しかし、どうせ女性を眺めるのなら「熱の湯」ではなく「四分六分」の方が適している気がする。それとも、「熱の湯」に浸かる女性を上から覗き見ているのかしら。
なんだかヘンよねえ、と九州から来たママとしきりに怪しむ。 |
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さて、いよいよ8時3分前。もう間もなく混浴時間が終了する。
脱衣所とは反対側の通用口からはっぴを着た番頭さんが現れ、入浴客たちに声をかける。
男性客らはぞろぞろと「熱の湯」の後ろにあるドアの向こうに引き上げていった。
だが、それでもなかなか動こうとしない男性が数人。わたしたちは階段の上からそれをジリジリしながら見守る。
「早く出て行ってよ」という心境である。 |
待ちきれなくなった女性がさっさと階段を降り始めたので、わたしも焦って後に続いた。一番に突撃して写真を撮りたいんだもん。
「熱の湯」の周辺には何人かの男性が残っており、あのミーアキャット男も心残りげに佇んでいた。
が、おばちゃんたちは構わず被り湯を浴び始める。衝立にはけっこう隙間もあるので、見えてしまわないかしらと心配する。
ようやく男性全員が、脱衣所の中へと消えた。これで安心してお湯に浸かることができる。
わたしは開放感でいっぱいになって「四分六分」の湯に浸かった。
熱くなれば浴槽の縁に座って、総ヒバ造りの壁や天井などをぼーっと眺める。
湯を愛するものを優しく包みこむような湯屋のたたずまい、鄙びた趣がなんとも心地よい。いつまでもいたくなるような素晴らしい空間であった。 |
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こちらは打たせ湯。ビニール袋が置かれていて、当たる人はそれを頭に被っていた。
髪が濡れないようにという配慮かと思っていたが、どうやら湯が目に入ると猛烈にシミルかららしい。
脱衣所の分析表にも、「目が一時的に見えなくなりますが」なんて恐いことを書いている。
ところで、酸ヶ湯温泉には別に小浴場「玉の湯」がある。そちらは男女別の内湯で、千人風呂を小さく凝縮したような浴室だ。 |
| シャワーがあるので、髪や体を洗いたい場合はそちらを利用するといい。浴室も浴槽も木でできており、雰囲気もなかなか。ただし、わたしが利用したときは大変混雑していた。 |