6日目 パリ発、レンタカーの旅7
 
最終日、シャルル・ド・ゴール空港へ
 シャンボール城を離れ、ハイウェイに乗る。空港まで距離にして201キロ。うち高速道路に乗っているのは165キロほどだ。
 途中、料金所が現れた。残りのユーロが少なくなっていたので、節約するため、わたしはカードで支払おうと思っていた。そこで、フランス語でカルテ、英語でカードと書かれたゲートに車を乗り入れた。
 無人で、カードを差し込む機械が置かれたゲートだ。
 わたしは嫌な予感を抱きながらも、機械にセゾンカードを入れた。
 だが、ブーッとブザーが鳴るばかりで、カードが戻ってこない。
 どうしよう。このままカードが戻らず、わたしは飛行機に乗り遅れてしまうに違いない。
 予感が的中した驚きでわたしの頭はパニックとなり、冷や汗が吹き出した。
 落ち着け、落ち着け。
 こうなったら係員呼び出しボタンを押して、カードが戻らないことを告げるより他にない。
 だが、何度押しても誰も出てくれない。思えば、サン・ドニの駐車場でもそうだった。フランスでは呼び出しボタンは無用の長物である。
 何度か押した末に、ようやく女性の声が応じた。わたしは「カードが戻らない」と英語で言った。
 それに対し向こうがなにか言ってきたが、聞き取れない。わたしが同じ言葉を繰り返していると、インターホンが切れ、やがて「しょうがないわね」という表情をした女性職員が右の方のブースから現れた。
 同時に左の方から男性職員も現れ、二人は何ごとか言い交わした。女性が機械のフタを開け、中からわたしのセゾンカードを取りだした。
 で、そのカードを男性職員が隣のブースの機械に通し、わたしに戻してくれた。
 ちょっと憮然とした表情だが、まあそんなに怒っている風でもなく事務的に処理したような感じだった。
 まったくもって、はあ、やれやれ。
 どうやらこの「カード」のブースは、プリペイド式かなにかの所定のカードしか通れないものらしい。いやいやミスした、ミスした。
 わたしは気を取りなおして、さらにハイウェイを走った。
 途中、交通事故を目撃。ああ、やだやだ、事故だよ〜。事故はヤダねえ。
 フランス語も話せず、唯一のコミュニケーション手段である英語はツーリスト英語というわたしが事故なんぞ起こしたら、どうなるか。
 ああ、あまりにも大変そうで、想像するだけでゾッとする。
 途中、また料金所があった。
 先ほどのハプニングに懲りて、今度はおとなしく有人ブースに入って現金払いをした。けっこうギリギリの金額だったので、ここでまた冷や汗。
 もしも現金が足りなくてカード不可だったらどうしただろう。
 さて、またまた気を取りなおしてハイウェイを北へと進む。
 やがて、それまでの牧歌的な風景からは一変し、背の高いビルが増えてきた。パリ市街地に近づいているのだ。
 それに従って、白バイ警官の姿が多く見られるようになった。道路の分岐点に立って、暗視鏡スコープのようなもので走ってくる車を見ている警官もいた。
 速度を測っているのだろうか。
 道路はやがてパリ市街地の外郭部分を走る環状線へと合流し、首都高のようにカーブしながら市街地から離れていった。
 空港まであともう少しだ。
 だが、まだまだ最後の難関、ガソリンスタンドの問題が残っていた。レンタカーをガソリン満タンにして返さないといけないのである。
 わたしはここへ来るまで、早く入れすぎて満タンでなくなってしまっても困るし、まだまだと我慢しすぎてガソリンスタンドがなかったらどうしようとか、どうでもよさそうな、しかしけっこう切実な問題で思い悩んでいた。
 だが、空港を前にして、ずばりジャストな位置にガソリンスタンドはあった。
 レンタカーの返却を想定して、ちゃんと空港直前に設置してあったのだ。それもパーキングエリアの奥とかではなく、誰が見てもものすごーくわかりやすい位置にあった。
 なんと合理的なお国柄なのだろう。日本では成田とか羽田の前に「ここで入れなさいよ」というようなガソリンスタンドはない。だが、ここは明らかにそれを目的として造られていた。
 本当によくできているなあと感心しつつ、わたしは給油機の隣りに車を停めてガソリンを入れにかかった。
 だが、給油口にレバーを差し込んでも給油が始まらない。試しに他の給油レバーを入れてみたが、やはり作動しない。給油が始まるとメーターの数字がめまぐるしく変わるので、すぐに分かるのだ。
 どうしたものかとうろたえていると、後続の車から白人男性が降りてきて、「Can I help you?」と声を掛けてきた。
 手間取っているからイライラして・・・ではなく、東洋のレディ(おいおい)が困っているので手助けせねば、という雰囲気であった。
 まさに「渡る世間に鬼はなし」だね。
 わたしが「スタートしない」と言うと、車が使用しているガソリンと一致しないレバーだと給油できない、と教えてくれた。
 で、この紳士は自ら正しいレバーを差し込み、作動させてくれたのだった。
 フランスではハイオクとレギュラーに「Super Premium」、「Plus Super」、「Super98」などの名前が付けられ、ハイオクは黄色、レギュラーは緑色のラベルになっている。
 ちなみにディーゼルは「Diesel」なので、これはわかりやすい。
 ここのガソリンスタンドは都会のせいか、給油レバーの数がちょっと多かった。緑色のラベルにも何種類かあり、つまりレギュラーにも数種類あって、今回は一致しなかったというわけである。
 あとになって、キーホルダーに貼られたガソリンの種類を示すシールと同じものが給油機にも貼られているので、それと同じものを入れればよいということに気づいた。
 なにはともあれ、男性の手助けにより無事給油終了。お礼を言って、車を発進させた。
 フランス人は冷たいと思っている人も多いかと思うが、そんなことはない。困っている人には男性も女性も手をさしのべてくれる。
 まあどちからというと男性の方が、女性に対して親切なようではあるが。
 ああ、あともう一つ、難関があった。空港に到着して、無事Hertzの営業所までたどり着けるかどうかである。
 ちゃんとわかるかしら、わからなかったらどうしようと、このときが一番ドキドキした。
 ガソリンスタンドを出て空港に近づいていくと、ターミナル1とターミナル2の分岐となった。
 わたしはANAが発着するターミナル1へと進む。すると、上の方に「Rental Car Return」という英語の案内が出てきた。
 さほど目立つ看板ではなく、青地に白の文字というあっさりとしたもの。それが何度か現れ、真っすぐを指示している。見落とさないよう、見間違えないよう、わたしは緊張して走った。
 矢印に従って進んでいくと、やがて駐車場内へと入っていった。
 最初の入庫のゲートでボタンを押して券を受け取り、中に進む。すると、またゲート。先ほど取った券を入れると、バーが上がった。
 ここからがレンタカーのスペースだった。目立つHertzの黄色い看板がコンクリートの壁に貼られており、オフィスもある。
 よかった、辿り着いた。
 なにごとも「案ずるより産むが易し」というが、ちゃんとわかるようになっているものだ。あれこれ心配するほど、わかりにくくはなかったぞ。
 わたしはHertzの看板があるスペースに車を入れた。近づいてきた係員に、借り出しの時もらった冊子(最後のページに車に関する情報が書いてあった)を渡し、最後の明細書のようなものを受けとって返却完了。
 あとは車内から荷物を引っ張り出し、空港へと移動するだけだ。
 が、どこへどう進んでいいのかサッパリわからない。バスでターミナルまで送ってくれるところもあると聞いていたので、バスがあるのかと思っていた。だが、係員は送るともなんとも言ってこない。
 わたしはオフィスの前でたむろしていた作業服姿の男性たちのうち、目があった肌の黒い男性に「どうやってターミナルに行けばいいんですか?」と英語で尋ねた。
 すると、すぐ目の前のエレベータに乗って、1階で降ればいいだけのことらしい。
 えっ、本当? と拍子抜けしつつ、半信半疑でエレベータに乗ったら、本当に出発ロビーに到着した。
 あらまあ、なんてことはない。ハーツのオフィスはターミナルの地下にあったのだ。
 ここまで緊張の連続だったので、あっけないほど簡単に返却完了、そしてロビーに到着できて、心底ホッとした。
 あとはANAの発着カウンターでチェックインするだけだ。
 搭乗までは時間がありあまっていたので、チェックイン後はゆっくりと買い物を楽しむことができた。
 とはいえ、もうひとつお城を見学するほどには時間もなかったので、ほぼジャストタイムで空港に到着できたようだ。
 わたしは化粧品やチョコレート、フォーションのハチミツなどを購入した。
 会計のとき、レジ係のお兄さんがトレイに載せたチョコレートを振る舞ってくれた。
 わたしの前で会計をした韓国人男性にはあげていない。レジのお兄さんが「パスポート見せて」と英語で言ったのに対して、韓国人がなかなか理解できなかったことで、ちょっとムッとしていたようだった。
 わたしにはうって変わって愛想がよくなり、最初につまんだチョコが「酸っぱい」と言うと、「もう一ついいよ」と勧めてくれた。
 まったくもって気分屋で女性には甘いフランス人なのであった。
 買い物後もまだ時間があったので、カフェで軽食をとって時間を潰し、ようやく搭乗ゲートへ移動となった。
 長い長いエスカレータの周りの壁はなんとも無機質で、ちょっと手抜き。
 
機内で
 帰りの便もANA。行きとは違い、座席は3人掛けシートだった。
 娘を窓際に座らせ、わたしは真ん中。
 そして、通路側にはツアーコンダクターの女性が座った。
 これがまた、なんだかとっても感じが悪い人だった。バッグの中をゴソゴソしているあいだ肘がゴンゴンぶつかったり、脱いだ上着をバシッとぶつけてきたりして、謝りもしない。
 やな感じ。
 そのくせツアーの人たちには愛想がよくて(当たり前だが)、笑顔でアンケートを受けとっていたりしている。
 で、彼女、通路側の肘掛けを使用していながら、さらにわたしの方の肘掛けにも腕を置いて眠っている。ちょいと、これはわたしの肘掛けだよっ。
 ツアコンだからってこちらを馬鹿にしているんじゃないの。自分を特別な人種だと思っているんじゃないかしら。
 コツンときたので、こちらも遠慮するのをやめた。
 席を立ちたいときは遠慮なく、寝ているところを起こさせてもらった。
 普段のわたしなら、起きたら立ってもらおうと待っていたりするのだが、こいつに遠慮は無用だ。トイレに立つときに立ってもらい、戻ってくるときにもまた立ってもらう。で、礼は最初の「すみません」、これ一回だけ。何度も礼なんて言うもんですか。ふん。
 まあそんなこともあって、帰りのフライトはちょっと長く感じた。実際、気流の関係で行きより長かったのだけど。
 おまけにパーソナルモニターでやるカードゲームのソリティアは、何時間やってもけっして「上がり」にはならないし。
 映画で「プロデューサーズ」を観て、思わずケラケラ笑ってしまったり、楽しいこともあったけどね。
 フライトの楽しみといったら、もう食事と映画しかない。飛行機で観た映画というのは、家でDVDで観たものより、なぜか非常に印象に残る。
 前回の旅行では「笑の大学」(役所広司 、稲垣吾郎出演)、「マダガスカル」。
 今回は「ナルニア国物語」と「プロデューサーズ」が素晴らしかった。
 さて、次回は11月か12月にイタリア旅行を考えており、フランスはまた来年。同じ5月頃に行きたいと思っている。
 自信がついたので、今度はシャルル・ド・ゴール空港についてすぐレンタカーを借り出し、パリのホテルで3泊ほどし、ロワール地方を周りながら3泊。
 あのシャトー・ドゥ・ローブリエールにも1泊したい。今度は水着を持って。
 で、オルレアンとかシャルトルなど、ジャンヌ・ダルク縁の地もまわってみたい。また盛りだくさんで忙しい旅行になってしまいそう。
 今から計画を練り、今度は余裕のある旅をしたい。


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