3日目 ヴェルサイユ宮殿1日観光 Part2
 
  ミュゼ・ドルセー駅
 前ページの準備編は、前の日の出来事である。これだけ入念に準備をしたにもかかわらず、当日はトラブルの連続だった。なにひとつ計画通りに進まない。次々と意外なトラブルに遭遇した。
 
 まず、朝7時40分にホテルを後にしたわたしたち。ここでいきなり蹴つまずく。リヴォリ通りに出て「ルーブル・リヴォリ」バス停で路線バスを待つが、目的のバスが来ないのだ。
 昨日まではあれほどすぐに来たバスなのに、おかしい。他の番号のバスはどんどん来るのだが、「ミュゼ・ドルセー」を通るはずの、そのバスだけが来ない。(あらためて路線図のHPを見ながら何番のバスに乗ろうとしていたのか調べてみたが、もう思い出せない。もしかしたら違うバス停で待っていたのかも、という考えになっている)
 
 乗る予定の電車は8時ちょうどの「VERSAILLES RIVE GAUCHE」行き。今すぐバスが来てくれなくては、乗り遅れる。
 いや、乗り遅れたとしても10分後にまた次の列車が来るのだが、やっぱり気が焦る。やむなくタクシーを呼び止め、これで行くことにした。
 
 オルセー美術館まではほんの7〜8分で到着した。お金を渡し、地下への降り口を下る。
 RER-C線の改札口に到着。改札は無人で、すべて自動改札機だった。チケットを入れるとパタッとゲートが開くのは日本と同じだがさらにその先には無銭乗車を防ぐための背の高い回転式のバーがある。
 
 次のトラブルは、ここで起こった。改札機にチケットを通すと、わたしのは問題なく通過できた。
 だが、娘のチケットが往路、復路のもの両方とも「ブーッ」と鳴って×が表示され、ゲートが開かない。何度通しても同じ。戻ってきてしまう。
 ゲート越しに、人のいる窓口の方を見やった。昨日ファルフェを買った窓口で、改札からは数十メートル離れている。女性職員が電話しているのが見え、顔はこちらに向いてはいる。ブーッという音も聞こえているはずだが、一向に来てくれる気配はない。
 
 だいたい、フランス人の仕事中の電話というのは非常に長い。なにか買おうと思って行っても、電話が終わるまで待たされる。職務上の電話なのか私用なのかわからないが、客が来たから手早く切る、という選択肢は彼らにないようだ。
 
 この場合も、窓口の女性が救助に来てくれるという可能性はとても低いように思えた。
 仕方がないので、娘にゲートをくぐり抜けて入ってくるよう促した。わたしが先に中に入ってしまっている以上、それしか選択の余地はないようだった。
 だが、娘は躊躇し、すぐにはくぐろうとしない。
 初日にガイドさんが「無銭乗車が多いので、抜き打ちの検札がある。その区間の乗車券を持っていないのが見つかると、ビックリするほどの違反金を取られる」と言ったのを、覚えていたのである。
 娘は、使えないチケットで乗車しているのがバレて咎められるのを恐れたようだ。
 だが、お金はちゃんと払っている。検札があったら、ちゃんと説明すればよいのである(へっぽこな英語だけど)。切符はあるんだから大丈夫だよ、と娘を励まし、ようやく通過させることができた。
 
 あとで娘から聞いたのだが、わたしたちが自動改札にキップを入れる直前、一人の若者がひょいと跳び上がってゲートを乗り越えていったという。アメリカ映画でもたまに見かける改札越えだが、まさか生で見られるとは・・・。バッグからファルフェを取り出そうと気を取られていた瞬間だったので、まさか乗り越えたとは思わなかった。
 
 わたしたちは改札から見て右側の階段を登り、ホームに上がった。「○×行き」という案内表示などもないので、とりあえず上がってみた。
 ホームの上に吊り下げられたモニター画面に、次に来る列車の案内が出ていた。「08:06 VICK」とある。その「VICK」こそ、まさにVersailles-Rive Gauche行きの列車の略称なので、あらかじめHPで調べてきた時間とは違うが、それに乗ることにした。
 
 で、ガイドさんに「危ない」と言われていたRER線であるが、やっぱりちょっと危ないかもしれなかった。
 まずホーム全体が薄暗い。さらに土曜の朝にしては人が少ないのか、あるいは土曜の朝だから人が少ないのかわからないが、とにかく人っ気がない。男性が一人ホームにいるくらいで、駅員の姿は皆無。東京の地下鉄でこんなに人がいないことは、まず考えられない。
 だが逆に、強盗すらもこんな時間にはほっついておるまい、と思えるほどの閑散具合だった。
 実は防犯のために催涙スプレーをバッグに忍ばせていたため、わたしは大して危機感は感じていなかった。相手がピストルでも持っていたらアウトだが、まさかそんな本格的な強盗なんていやしないだろう。(あくまでも強気) 
 ほぼ時刻表通りに、「VICK」と表示された列車が到着した。フランス国旗のカラーリングが施されたおしゃれな車体だ。
 中から女性が一人降りてきて、なんだ大丈夫そうじゃないと、ひと安心。
 車内は1階と2階の席に分かれていた。2階建ての列車というものに初めて乗るわたしたちは、迷わず2階席に直行した。
 なるべく人が多い車両に乗りたかったが、わたしたちが登った2階席には、1人の男性が乗っているのみだった。わたしたちはあまり車内の奥に進まず、出入り口近くに座を占めた。
 
 座席はビニール製で安っぽい感じ。ところどころ黒いマジックで落書きが書かれ、窓にもひっかいて書いた落書きが。
 列車が走り出し、いくつかの駅に停まると、次第に乗りこんでくる人が増えてきた。わたしたちのすぐそばには挨拶のキスを交わす男女の通勤客なども座り、次第に緊張感が薄れていく。
 列車はしばらく地下を走ったあと、やがて地上に出た。どうやらパリ郊外に抜けたらしい。すると、通勤客はひとり降り、またひとり降りていって、車内は再び閑散となってきた。だが、明るい地上を走っているので、不安感は少ない。
 ミュゼ・ドルセー駅を出て30分ほどで、列車はヴェルサイユ・リヴ・ゴーシェ駅に到着した。 
  ヴェルサイユ・リヴ・ゴーシュ駅に到着
 電車を降りて、改札に向かう。
 ここで懸案だった娘の切符の件をどうにかしないといけない。
 ここの改札、ミュゼ・ドルセー駅とは対照的に、とても多くの駅員がいた。観光客が多いため、いろいろ対処する必要があるからだろう。
 改札の手前に立っている若い男性の前に行くと、親切そうな笑みを浮かべ、「ボンジュール、マダーム」と言ってくる。よしよし、フランスの男性はこうでなくちゃ。
 わたしは流暢なへっぽこな英語で「このチケットは昨日買ったものだが、ミュゼ・ドルセー駅の機械を通らなかった」と伝えた。するとその駅員、切符を機械に通してみせた。
 あれほど弾き返された切符が、難なく通るではないか。
 もうビックリ。駅員さん、「Good ticket」と微笑む。
 礼を言って改札を通り、駅を出た。
 あれはなんだったのだろう。ちゃんとした切符が機械を通らないなんて、日本ではまずないことだ。ミュゼ・ドルセー駅の機械の故障だとしか思えない。さて、娘の復路用の切符、このあと果たしてどうなるだろうか。


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