3日目 パリ観光Part4
■警察署、探せど探せど見つからず
 さて、翌朝。
 昨日は右足を捻挫してシャンゼリゼ大通りのど真ん中でみっともなくもズッコケて日本女性の名を汚し、さらにモノ・プリでスリに遭って財布をすられ、コツコツと集めた小銭とカルネ(バス、メトロのチケット)を失うという失意の1日だった。
 これをドラマにしたら「トラブルが続きすぎて設定が不自然」なんて投書が来るかもね。
 
 朝食を終えると、わたしはホテルに義母と娘を残し、届け出のため一人警察署へと向かうことにした。
 まず最初にホテルのレセプションで「財布を盗まれたので警察署に行きたい。一番近い警察署を教えてください」と英語で言ったところ、「このホテルで盗まれたの?」と訊いてきた。
 わたしは「いえ、モノ・プリで」と答える。
 
 ところが、女性の担当者は警察署の場所を知らないようであった。彼女は黒人の男性にも訊いてくれたが、彼も知らないとかぶりを振る。
 そこで、彼らは向かいのコンシェルジュにいたポーターの男性に声をかけた。
 ジャンとかいうポーターは知っていたようで、行き方を教えてくれた。ホテルのあるサンノトーレ通りを2ブロックほど行った右側だという。
 
 それにしても驚愕したのは、この場にいた数人の従業員で警察署の場所を知っていたのは、このポーター1人だったことだ。
 日本だったら考えられないような話だ。
 日本で職場の最寄りの警察署を知らないなんてことは、まずないだろうと思う。例え市外から出勤してきていたとしても、人に訊かれれば警察署か交番の場所くらいは教えられるはずだ。
 なのに、わたしが警察署を探して歩いているとき、人に尋ねても知らないと言うし、タクシーの運転手に訊いてもわからないと答える。
 
 フランスでは落とし物をしたり盗難に遭ったりしても、なくなったものはまず出てこないとガイドブックに書かれてある。
 フランス人は警察に足を運んで届けるということをしないのだろうか。
 日本では、財布を落としたが現金もそのままに戻ってきた、という美談はけっして珍しくない。
 しかし、フランスでそんなことはおそらくありえない。
 お釣りをごまかされたという話もよく聞く。
 拾いものをしても、落とし物をしても届け出ないのが普通なのかもしれない。
 フランスに交番はないし、彼らにとって警察とは、日本のように市民生活と密接に結びついた存在ではないに違いない。
 
 いや、一般市民が知らないのは、まだわかる。
 なにが驚いたって、道を歩いている警察官に尋ねたところ、すぐには答えられなかったことだ。「えっ、この人たち知らないの?」と、えらく驚愕してしまった。
 警官同士相談し合って、やっと教えてくれた。だが、その通りに歩いたというのに、わたしはやっぱり発見できなかったのである。
 もしかすると、わたしの英語のリスニングに問題があったのだろうか。あるいは警察官の英語力が不足していて、正しく説明されなかったのでは・・・とも考えたが、やっぱり違う。本当に彼らの道案内を正確に反芻し、「このオペラ通りの右側ですね?」と確認したんだから。
 なのに、見つからなかった。
 
 結局わたしはホテルを起点にサンノトーレ通りをマドレーヌ寺院まで歩き、オペラ座の前を通ってオペラ大通りを歩いてホテルに戻ってきた。
 今回警察署を探して歩いた軌跡をマップにしてみた。青い矢印が歩いた行程である。
 ホテルからマドレーヌ寺院までは約800メートル、オペラ座からホテルからもだいたい800から900メートルくらいだ。
 捻挫の足を酷使して2キロ近くも歩いたことになる。
 
 ホテルに戻ったわたしは、部屋の電話から再び「損保ジャパン」に電話を入れた。繋がった先はまたもシドニー・オフィス。パリのオフィスがまだ営業時間外だったからだ。
 わたしは事情を話し、パリ・オフィスから折り返しの電話をもらうことになった。
 オフィスが開く9時をやや過ぎて、電話のベルが鳴った。
 パリ・オフィスの女性からで、警察署の住所を教えてくれた。ガイドマップを見ると、該当のストリート名が見つかった。そこは、ポーターのジャンが言っていた場所にぴったりと一致した。
 ホテルからさほど遠くはない場所にあったわけだが、肝心のストリート名を知らないためどこを右折してよいかわからなかったというわけだ。
 
 つまり、「Rue du Marche St-Honoreという通りを右に曲がり、2ブロックほど進んだ先にある」というところまで正確に教えてくれなければ、けっして辿り着けない。サンノトーレ通りから警察署の建物は見えず、「Police」はこちら、という案内標識すらもない。
 
 わたしたちは警察署からそのまま観光に出ることにし、今度は3人でホテルを後にした。
 今度は通りの名前がはっきりわかったわけだから、スムーズに辿り着けた。
 そこはPlace Marche St Honoreという、袋状になったわかりにくい場所であった。行ってみれば道路にパトカーが何台か停まっているため、すぐにそれとわかる。だが、サンノトーレ通りからは見えない。
 正確な住所は「49 Place Marche St Honore」だ。
 
 これで得た教訓は、個人で旅行に行くときは警察の場所をあらかじめ確認しておくとよいというもの。もちろんガイドブックの地図には載っていないので、google mapで調べるといい。
 ホテル周辺の地図を表示させ、検索窓に「police」と入力すれば周辺の警察署が表示される。ちなみに警察署はフランス語で「Prefecture de Police」と言う。
 
 さて、義母と娘を連れて警察署に入ったわたしは、受付の警察官に英語が通じないといけないので、フランス語の本を見ながらモノ・プリでスリに遭ったこと、盗難証明書を出してほしい旨をフランス語で伝えた。
 そのうち会話は英語になって国籍を聞かれたので日本と答えると、間もなく日本語で書かれた届け出用紙が発行された。
 被害の状況や日時、盗まれた物の概要などを一問一答形式で書いていく。
 受付の若い男性警察官と女性警察官は、まあ普通に英語が話せる。わたしの次に駆けこんできたアメリカ人男性は「地下鉄で押されてカメラを盗まれた」と訴えていた。
 
 やがてわたしの前には、すらりとして精悍な警察官が現れた。
 わたしが「セフト・レポートを出していただけますか?」と頼むと、「もちろん。それがわたしの仕事です」と答えた。
 彼に続いて2階のオフィスへ。義母と娘には下の椅子で待っててもらう。
 警官はパソコンの前に座り、わたしが書いた届け出用紙を見ながら全項目を入力していく。もちろん彼が日本語を理解しているわけではなく、丸をつけた回答の横に英語が添えられており、それを見て入力しているわけだ。
 時々質問を交えたりしながらなので、入力にはけっこう時間がかかった。
 そして、プリンタから10数枚ほどの紙が印刷された。
 それらすべてのページの末尾に彼はサインを書き加え、わたしにも隣りにサインを書けという。
 「これ全部に!?」
 「そう、全部に」
 言われて、彼の達筆な? サインの横に、へたっぴいな英語のサインを記す。
 最後に彼自身のサイン部分に警察署のスタンプを押し、2枚をわたしにくれて、「はい、終わり」。
 書類は全文フランス語だ。ルイ・ヴィトンの財布を盗まれたってことは書いてくれたのかな? と、戸惑っていると、彼は再び「終わりだよ」と手続き終了を告げてきた。
 わたしは「メルスィ・ボクー、ムッシュウ」と礼を言い、オフィスを後にした。
バトー・パリジャン セーヌ川クルーズ
 なにはともあれ、やるべきことは成し遂げた。
 苦労はしたけれど、一抹の充実感を味わいながら警察署を出る。
 やれやれっと安堵しながら、わたしたちは再びパリの街を歩き出した。あっ、警察署の写真を撮ってくるの忘れた。ざんね〜ん、また今度。って、今度はないよね、さすがに。二度目もあったら困るわ、マジで。
 →チュイルリー庭園を真横に突っ切り、セーヌ河の岸辺に出ようとするところ。突きあたりに見えるのがコンコルド広場のオベリスクだ。
 セーヌ河に出る。これからセーヌ河の川下りだ。
 わたしが海外ホテル予約サイトBOOKING.COMを通じて予約したのは、ノルマンディ・ホテルのクルーズ・パックというプランだった。このパック・プランには、遊覧船に乗れる無料のチケットが人数分ついてくるらしい。
 特に川下りがしたくて予約したのではない。しかし、川下りは娘がぜひにと望んだし、初パリの義母にもぜひ体験してもらいとも思ったので、時間があれば乗ろうと、ホテルのフロントでチケットをもらっておいたのである。
 それに、わたしはタダのチケットを使わなかったら損をしたように感じてしまう悲しい貧乏性でもある。 
 実は何事もなかったら、川下りは昨日の午後に、パリ・ディズニーランドを今日に持ってくる計画であった。だが、昨日あまりに次々と色々なトラブルに見舞われたため計画変更を余儀なくされ、今日のクルーズとなったわけなのだ。
 ホテルでくれたチケットは、バトー・パリジャンという船の川下りであった。わたしたちは乗り場を探して岸辺を歩いた。
 だが、バトー・パリジャンの乗り場は近くにはなかった。つぶさに地図を見ていくと、バトー・ビュスの乗り場は近くにあるものの、バトー・パリジャンはエッフェル塔そばのイエナ橋まで行かないと乗れないことが判明した。
 うーん、手抜かった。バトー・ビュスがチュイルリー庭園の近くにあるので、バトー・パリジャンもそうだと思いこんでいたのである。おまけにバトー・ムッシュなんて紛らわしい川下り会社まであって、混乱していたのである。
 ちなみにバトーとは「ボート」のフランス語である。
 わたしたちが乗るバトー・パリジャンがどこから乗れるかは、これでわかった。だが、歩いてエッフェル塔まで行くことはできない。遠すぎるのだ。
 そこでタクシーで行くことになり、今度はタクシー乗り場を探して歩くことになった。
 タクシーでバトー・パリジャンの船着き場に到着。しかし、たくさんの船が停まっていて、どれに乗るのか、どこへ行ったらいいのかまったくわからない。
 見渡すと、ずっと端っこの船に人々が乗り込んでいる様子が見えた。
 本来なら乗船前にチケットを買い求めなくてはいけないが、わたしたちはすでにチケットを持っているので、すぐに乗ることができた。
 この料金、大人は10ユーロ、12歳以下の子どもは5ユーロだ。つまり、25ユーロ分のチケットが浮いたというわけである(ここに来るのにタクシーに乗って6ユーロ使ってしまったけど)。
 ちなみにランチ・クルーズは52〜72ユーロ、子どもは31ユーロ。そしてディナー・クルーズは95〜140ユーロとなっている。
 乗船場所、スケジュールなどはバトー・パリジャンのHPで確認してください。(英語、音楽あり)
 他にアルマ橋近くで乗れるバトー・ムッシュ、バス感覚で乗れるバトビュスなどといった会社が多数ある。
 バトー・パリジャンは一昨年のディナー・クルーズで利用した会社。そのときの模様はこちらでご覧いただけます。
 さて、乗りこんだはいいが、座席は満席に近い状態。窓際の席はまったく空いていない。
 いったん中央の席についたが、後で後方に窓際を見つけたので移動した。
 乗ってすぐの11時、船はクルーズに出発。これに乗り過ごさなくてよかった。もし間に合わなかったら、次の便は約1時間後になってしまうところだった。
 お天気はまさにクルージング日和。暑いほどの陽気で川下りもいっそう楽しさが増す。
 唯一空いていた窓際席をラッキーにもゲット。が、その外側にも横向きに座る席がある。
 各座席には一つずつオーディをガイドがついている。数カ国語に対応しており、日本語もあった。
 オーディオガイドが途切れたところで、船首方向に立つガイド役のお姉さんが補足を入れていく。フランス語の次に英語、スペイン語でしゃべるが、よく聞き取れない。日本語でも話して欲しかったが、そればかりはちょっと無理だろうな。
 なにしろ日本人客はとても少なかったのだから。
 わたしたちの他には添乗員さんに引率されたツアーの人たちだけで、単独で乗りに来ている日本人はいなかった。
 下はサイトシーイング・クルーズのルートマップ。エッフェル塔の足元から出発し、右手にオルセー美術館、フランス学士院、シテ島のノートルダム寺院と見ていく。
 座席から撮影した「アレクサンドル3世橋」。このように写真としてはあまりきれいに撮れないので、肉眼で楽しむのが一番だ。
 なんといっても橋の上からは見えない橋桁の装飾などが克明に見て取れる。
 岸辺から見た「アレクサンドル3世橋」とグラン・パレ。
 船上から眺めたノートルダム寺院
 このあと、船はサン・ルイ島を過ぎたところでUターン。往路とは逆サイドを通って引き返していく。
 サン・ルイ島は観光スポットの少ない静かな高級住宅街。島内の建物のほとんどが17世紀に建てられた貴族の館だそうだ。
 船は再びシテ島に差しかかり、左手にコンシェルジュリ、また右手にルーブル美術館などといった建物を見ながら、それらにまつわる歴史的逸話などが語られていく。
 フランス革命下、監獄として使用され「ギロチンへの入り口」とも呼ばれたコンシェルジュリ牢獄。マリー・アントワネット、オルレアン公、ロベス・ピエールなど多くの囚人がここからギロチン台へと送られた。
 船は再びエッフェル塔のそばに戻って到着。食事をしながらではなく、ただ景色を眺めるだけのクルージングもなかなかいいなと改めて思った。
 パリのセーヌ河岸はユネスコ世界遺産の文化遺産登録されている(1991年)。川沿いにこれだけの遺産的建築物が建ち並んでいる様は実に壮観だった。
 これで面白くないわけがなく、義母は「すばらしかったわぁ」と非常に喜んでくれた。
 下船後、エッフェル塔の下まで歩いて行って記念撮影。エレベータには相変わらずの大行列ができていたし、いつ行っても武装した軍人が真下に立っている。
 誰でも荷物チェックなしで塔の下に行けるためテロが起こりやすく、テロが起こったとしたらもっとも効果的な場所だと政府が判断しているのだろう。
 
※エッフェル塔の詳細はこちら→その1(2005年) その2(2006年)


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